HOME > いっしょにやりまひょ TOP

紙の爆弾3月号のインタビュー 2015.05.26

今年の2月7日発売の「紙の爆弾」3月号に私のインタビューが掲載されました。住民投票が終わって読み返してみて、取材時点の1月7日から殆ど私の思いもスタンスも変わっていないと感じ、出版社の鹿砦社の許可を得て記録としてここに残すことにしました。

日本の暴走を止めるのは「いま、大阪から」

昨年12月26日、読売新聞がぶち上げたスクープが、浮足立つ年の瀬の大阪のまちに衝撃を走らせた。《大阪都住民投票 公明、賛成へ》。大阪市長の橋下徹氏(維新の党最高顧問)が提唱する大阪都構想をめぐり、維新と対立していた公明が突如、方針を転換したのだ。それは暗礁に乗り上げていた大阪都構想と、凋落傾向にあった維新と橋下氏の「蘇生」をも意味した。5月17日の実施が現実味を帯びる住民投票の結果は、大阪市という政令市の存亡を決するとともに、政局がらみの色彩も帯びる。08年に知事に初当選した橋下氏と同時期に大阪市長を務め、のちに市長選に鞍替えした橋下氏に苦杯を喫した因縁を持つ平松邦夫氏は、政治家としての橋下氏の「黎明期」を最もよく知る人物。都構想の行方と、大阪の再生などについて話をうかがった。(構成:栗原佳子)

住民投票で×なら橋下さんは辞めればいい

Q、頓挫したと思われた「大阪都」構想が年末、突然、動き出しました。

A、ゾンビみたいなものですよ。昨年1月31日の第13回法定協議会で維新と他党が決裂、橋下さんは昨年3月、「設計図(協定書案)を作らせてほしい」という理由で出直し市長選挙に打って出て当選しました。その後、第19回までの法定協議会は他党を締め出し維新単独で開かれ、維新だけで無理やり協定書案がつくられました。その協定書案は昨年10月に行われた府・市両議会で否決され、手続き上では、設計図と呼ばれるものも、住民投票もなくなったのです。

それが、急転直下、公明党が態度を変えるということになりました。衆院選で維新が大阪府下、大阪市域で比例得票数第1位だったことが理由だと伝えられています。結局、今年1月13日の法定協議会で、昨年10月の府・市議会で否決されたのと全く中身の同じものが協定書「案」となり、今後、2月の府・市議会で可決され、5月17日に住民投票という流れになってきました。

Q、住民投票は20歳以上の大阪市内の日本国民が対象。賛成が過半数に達したら2017年4月に大阪市は解体されることになります。逆に反対多数なら廃案です。今朝(1月7日)の産経新聞には、橋下さんがBSの番組で「もし過半数取れなかったら、今年12月の市長の任期満了後、政治家を辞める」と発言したと報じられています。

A、任期満了まで待たんでも、住民投票やって「ペケ」がついたら辞めたらよろしい。住民投票は一体、いくらかかるんでしょうね。国からは一銭も出ないでしょう。自らの思いで仕掛けた、あの出直し市長選にしても6億円以上の公金をかけたわけです。住民投票は本当に最後の手段だと思います。法定協議会でさんざん議論をやりつくし、その中でプラスもマイナスもこれだけ明らかになり、議会の過半数の了承をようやく得られ、「さあ、じゃあ最後の手段として住民のみなさんにお聞きします」というのが住民投票です。それが「住民投票ありき」になってしまっている。「首相公選制」を言うてる人ですから、たぶん「二元代表制」がまどろっこしいんでしょうね。日本は議会制民主主義の国。そのもとで二元代表制が敷かれています。市民を代表する行政のトップとして首長がいて、行政の執行をチェックするためにそれぞれの地域から選ばれた議員がいるという2つの民意を担保できる仕組みです。私も4年間市長をやらせてもらったのでわかりますが、首長は、議会をやすやすと乗り越えるだけの大きい権限を持っています。しかし、そんな権限を振りかざしたら議会制民主主義の全面否定にほかなりませんし、非常に怖い世の中が出来るのではないかという思いが強いんです。あの人とは、民主主義というものの捉え方が根本的に違うのだと感じています。民主主義は、絶えず対立をしている対抗軸のなかにあって、いま行政ができることの最大効果を出すために意見を斟酌しながら歩み寄りをはかるとか、三方一両損でもいいからこの方向にということをやってこそだと思います。民主主義というのは時間がかかるのです。なおかつ、行政というのは一番人々の生命、暮らしに直結している部分を預かっているから、それだけ丁寧な説明や説得、手続きが必要です。

大阪市がなくなれば二度と元に戻せない

Q「スピード感」を重視するという橋下さんのいかにも苦手な分野に思えます。住民投票の行方はどうなりそうですか?

A、いまの雰囲気だと、通ってしまう可能性のほうが高いと危惧しています。やっぱり「都構想」というネーミングは、「なんかええもんやろ」と思わせるでしょう。「とんでもないもんや」というのが正直のところですが。政令指定「大阪市」を廃止して「新大阪府」となった場合の問題点を知ってもらおうと、正月明けからフェイスブックとツイッターに連続で書き込みをはじめました。よくわからないけど、いまより改革されるのだろうと思い込んでいる方も依然おられるのではないかという危機感にかられています。例えば、「いまの大阪市が5つの区に分かれるのではなくて、5つの新しい市ができるのです」と書きましたが、まだピンときてない方もいるでしょう。5つの自治体ができ、それぞれに、市長に相当する特別区長、市役所に相当する特別区役所ができ、それぞれ議会、議員が誕生します。大阪市の有権者に協定書の中身をよく知ってもらい、本当に大阪市がなくなってしまうことに賛成するのかどうか、5月17日の投票直前までいろいろなかたちで発信していきたいと思っています。

Q、自分の周辺を見ても、大阪市という指定都市が消滅することは、あまり理解されていない気がします。大阪都構想といっても「都」にしていいという法律はなく、もし住民投票が通ったとしても、「大阪都○○区」ではなく「(新)大阪府○○特別区」ですよね。もし失敗したとして、元通りの大阪市に戻すことはできるのでしょうか。

A、二度と戻りません。「いっぺんやらしてみたらええやん」では済まないのです。「もう政令市の大阪市に戻らなくてもいい」「大阪府を助けるために大阪市が財産投げ捨てるんや」と覚悟を決めた市民が圧倒的多数なら大阪市はつぶされます。代わって出来るのが、指定市としての権限や財産も吸い上げられる5つの特別区になります。住民投票が実施されるとしたら、「どうせ、通ってしまうんやから投票に行ってもしゃあないわ」でなくて、自分の問題として「絶対投票に行く」「圧倒的多数で反対票を入れる」という気持ちになっていただきたいと思います。都構想に反対している各政党――、公明党も中身そのものには反対だとおっしゃっているので反対の勢力とするなら、自公民共があらゆる手段を使って、「実現したら大阪市は大変なことになる」ということをアピールしていくことが大切だと思います。やれることはいっぱいあるはずです。

都構想にメリットはあるのか?

Q、そもそも都構想にメリットはありますか。

A、例えば、維新の会は最初、都構想の効果は4000億円だとさんざん宣伝しました。それが実際に精査すると自民党さんによると1億くらいしかない。なおかつ、「都」にしなくても、大阪市がその気になって改革していけばやれるものも全部含まれています。市営地下鉄民営化の効果を「都構想」の効果に入れるのはどう考えてもおかしいです。そういった当たり前の議論が、決裂した昨年1月31日までの法定協のなかにはありました。維新のいうメリットを、細かい設計図や数字抜きのまま載せるメディアにも問題があります。単なる「伝声管」で、検証能力のなさを自ら露呈しているとしかいいようがないです。

Q、では具体的なデメリットはなんでしょうか。

A、やまほどあります。橋下さんが知事時代に「都構想」を打ち出したとき、私は大阪市長でした。「都構想ではなく『都妄想』」と言ったのですが、その通りになってきています。市を5つに分割し、広域行政は府がやる。いま大阪市が持っている都市計画とかの権限も府に移すなどと言いますが、具体的にそれが何を指すのか、市民にどう影響するのかが分からない人の方が圧倒的に多い。細かいことを言えば言うほどどんどん深みに入ってしまいます。財政問題であるとか、税の分担をどうするのか、職員の数をどうするのか。なおかついま大阪市が一つであるからこそやれているものを、5つに割ったら職務分担がまたがってしまうところがいっぱいある。それは「一部事務組合」にして、職員ももちろんそこに行くという。そんな「一部事務組合」が100以上できるというじゃないですか。新しい庁舎の建て替えなど、初期費用だけで680億ともいわれています。それだけでは済まないでしょう。都構想の効果が4000億あるといいながら一説では1億にしかならないのに、です。でも、住民投票が通ってしまえば、協定書通りにいかざるをえないというのが普通のストーリーです。わかりにくいまま、イメージを打ち上げることによって、騙される人がおそらくいるのでしょう。わかりやすく説明できればできるほど、なんでこんなアホなことすんのっていうことに行きつくと思います。

Q、大阪以外の人には何が起きているのかわかりにくいでしょうね。

A、本当に、何してんねんと思ってはると思います。特に3・11の東日本大震災のあと、日本という国は信じていたものが根底から覆ってしまった、ではその次にどういった社会を、次の世代につないでいくかということを考えたとき、私は大事なのは民主主義だと思います。いまあるもの最大限有効に生かしながら、どういう人たちと力を合わせて未来をつくっていくか、です。上から目線の制度論だけに終始しているやり方でいいのかという疑問がありますね。

Q、それでもまだ大阪では橋下人気、維新人気がなかなか衰えませんね。

A、今年4月に改選される大阪市議会選挙では、前回、最初の維新の大きな風が吹きました。「なんかええもんなんやろ」と、あれだけの結果になりました。少し風は治まっているとはいえ、やはり大阪市内、府下で比例第一位の票数をとる。これはいったいなんなのか。やはりプロパガンダの力が大きいと推測しています。この3年8カ月、何十人という維新の市会議員、府会議員がいらっしゃって、国会議員も、野党第二党というだけの人数を擁する政党になっています。その政党が、政党交付金をつかいながら、ありとあらゆる宣伝手段を打っているのです。これをそのまま伝えているマスコミもありますし、都構想はええもんやというニュアンスで伝える番組もあるので何をかいわんやです。橋下さんのように、あれだけずばずばものいう政治家はいままでいませんでした。敵を見つけて、あるいは敵を仕立てて自分を目立たせるとういうやり方を絶えずされてきています。一番核心を突いた人は「バカ」の一言で切り捨てる。根本的に考えが違う人を説得する思考回路がないのです。

Q、そういう橋下さんに最初に敵役に仕立てられたのが平松さんでした。

A、よく、「あんたももっと強く言わんかい」と言われることがあるんですが、そう言ってしまうと、同じことの対立構造でしかありません。だから私の中では、具体的に大阪をこうすればいまよりよくなるという提案を、いくつも出していくというのが本体の政治家としてのやり方かなあと思っています。私が市長で橋下さんが知事時代は、メディアから「橋下さんはこう言うてはりましたよ、平松さんどうですか」と、対抗軸として取り上げられてきました。「そんなことより大阪市はこんなええことやってるんですよ」ということは置いていかれたという記憶があります。大阪の成長はもうないという人もいますが、私はこのまちの底力を信じています。生きがいであるとか、仕事のしがいであるとか、中小企業のまち・大阪はこうことができるとか、あらゆる知恵を絞り、現場で動いている人たちのやる気と方向性さえ引き出しさえすれば、その底力でもういっぺんやれると思います。この3年、維新のツートップで府と市でやってきたわけですが、維新の人たちが目指すこのまちの将来像というのを描き切れているのかというと、まったく見えてこない。5つの特別区の一つ「湾岸区」に「IR」と称してカジノを持ってくる、それが成長戦略だなんて寂しいです。

Q、平松さんが二期目に挑む市長選で、橋下さんが知事から鞍替え。激戦になりました。

A、僕が市長の後半、彼が大阪維新の会を立ち上げました。それ以降、僕が市長会見で橋下さんがやっていることについて発言している記事をずらっと並べてみたら、当時危惧したことが全部現実になっているのです。「普通に考えたら、こんなおかしいことないやろ」ということが続いてきているのです。公募区長、公募校長、橋下さんの肝いりの府教育長、市交通局長。なんなんですか、と言いたいですね。

止めるのはいま、大阪から

Q実際、市政のかじ取りをしたお立場からは、大阪は見るも無残な状況に映りますよね。

A、批判になるのであまり言いたくないのですが、自分の思いだけを押し付けながら、公務員バッシングの大きな波に乗って上から締め付け、なおかつ、市民のほうに向かって走ろうという気概を奪うやり方はいかがなものかと思います。それをされて、公務員の人たちが、「まあ、そのうち市長も変わるやろうから、それまでおとなしくしていよう」というふうに自己保身に走ったからといって僕は責められないと思います。生活がありますから。教育に関しては絶対に黙っていられません。大阪の教育者になりたいと思う人がどんどん減り、なおかつ現場の教員も、優秀な人材が、もうここでは自分の目指す教育ができないと思い、他府県の教員になろうと途中で変わっていくという実態があります。あるメディアの大阪の教育問題特集でも、進路について聞きにきた教え子に「大阪はやめとけよ」と言わざるをえないという教育大の教授の声を紹介していました。優秀な先生がこないとなれば、いま残されている優秀な教師のところにますますしわ寄せがきます。それでいて校長先生は公募校長です。行政のやり方というのは、一歩進むのに大変な努力と苦労があります。にもかかわらず、後はどうなっても構わないという思考だと、ここまで簡単に潰れるのかと思います。

Qそれでも、テレビの街頭インタビューなどを見てもいまだに、「橋下さん、頑張っているやん」という方たちが結構いますね。

A、マスコミのせいでしょうね。でも、僕もマイクを持って記者会見のあの現場にいたら、どういう反応をするだろうか、とよく思います。きちんと批判するメディアがでてきたら、彼は「バカ」と攻撃します。それでもめげずに堂々と立ち向かうのか。なんのために「第四の権力」と呼ばれてるのかということからすれば、脅しや恫喝、「バカ」という攻撃にひるんでいるだけなら、早くマスコミの仕事を辞めたほうがいいです。

Q大阪が大変なことになってしまったと思っていたら、いつの間にか国全体も悪くなってしまったという印象です。

A、そういったものにストップをかけられるとしたら、僕は大阪からだと思う。ここから始まりましたから。「なに言うてまんねん、アホ言いなはんな」というかたちで、すこーんとひっくり返すことができるのが、大阪市民なんだろうと思うんですよ。

Qひっくり返せるとしたら、それはいつでしょうか。

A、住民投票です。それがもし行われるとなったら、そこが一番の山場です。熟慮も熟議もされていない協定書の内容で○か×かの住民投票をするわけです。ここで完璧に「ノー」を突き付けることによって、あの一団の虚構を世に知らしめる絶好の機会を大阪市民は持ったということになると思います。その前段階が統一地方選です。4月12日の統一地方選で、いかに維新の数を減らすか。維新が過半数をとれない、3分の1すらとれない、あるいは、どこかと組んでも過半数にならないという状況にできるのか。それは、市民が大阪市をどうしたいかという一つのバロメーターになるでしょう。統一地方選も大事だし、そのあとの住民投票も大事。僕はそこへ政治生命をかける、それくらいの気持ちでいかないとだめだと思っています。なんぼおいしいことを言われても、それがどういうことなのか、未来への保証はありません。「あの人頑張ってはる」というような人たちが主流で、投票に行かれたときには、大阪市はつぶれます。そんな流れを止めるのは大阪市民です。

Q、年末の市長選はどうなるのでしょうか? 平松待望論にはどう応えますか。

A、もし住民投票で賛成が多数になったとすると、次の市長に橋下さん、あるいは別の誰かが勝ったとしても17年4月までです。橋下さんの対抗馬が通ったとしても、都構想をひっくり返すための住民投票をまたできるのかどうか。殆ど無理でしょう。市長選に出るかどうかはわかりません。いまは住民投票でなんとしても、過半数の人たちが×をつけるような動きに向けて、全力を尽くすというしかない。手をこまねいて、指をくわえているだけでは変わらないという思いです。

(了)

 

[Category:その他,コラム